トップ寝言>「ビール党宣言」

 一つのカモが日本中を歩き回っている。ビール党というカモが。古き日本の霞ヶ関の権力が、このカモから金をむしり取るため、神聖な法律を立てている。酒税法とアルコール事業法、並びに関連する全ての政令・省令・施行規則。
 権力の座にある役人たちから税金をむしり取られなかった酒飲みが、どこにいようか。自分たちよりも酒癖がよい酒飲みからも、酒癖が悪い酒飲みからも、酔っ払いとしていいように酒税をむしり取らない公的権力がどこにいようか。
 この事実から、以下の二つのことが帰結する。

一、ビール党は財務省から、既に大きな財源として認められているということ。
二、ビール党は公然と、日本中の人々に対し、その見解、その目的、その性向を公表し、ただむしり取られるだけのカモというお伽話に、党自身の宣言に対抗するのに最適な時期であること。

 この目的のために、様々な嗜好を持つビール党たちが東京に集結し、次の宣言を起草し、当サイトに掲載することにした。



 これまで存在したあらゆる酒税関連法令は、国家権力の便宜を図る法令である。

 酒税法には、ビールの製造免許を申請するためには、年間の製造量が60klに達する必要があるという規定がある。そして、製造免許を持っていなければ、販売用のみならず、自らで飲むためのビールを醸造することも許されない。
 この壁の前に、酒造業者たちは熾烈な販売闘争に明け暮れ、その結果、年間60klの製造を保つことができなくなった者たちは、製造免許を取り消され、没落して行った。また、自らの好むビールが市場に無い者たちは、自らの手で作ることもできず、諦める他なかった。

 年間60klという規定に、科学的理由は無い。醸造技術と衛生管理さえしっかりしていれば、少量でも美味にして安全なるビールを作ることができる。
 しかし、国家権力は酒税を徴収するために、酒造業者に厳しい監査を行う。有償で販売した酒類にはもちろんのこと、無償で譲渡したものや工場内の無料試飲として振舞ったものに対しても酒税を課す。このために、一瓶一瓶ごとに厳密な管理を行うことを要求し、必要に応じて厳格に調査する。運搬中の過失や自然災害による事故で飲用に供することができなくなったものについても、複雑な帳簿処理が必要となる。
 このように、酒造業者一軒一軒を管理するために、官庁側は大変な労力を費やしている。美味い酒を飲み、買った分だけ税金を払えば酔いと思っている我々にとって、こういった苦労は全く無意味であり、本質的ではない。しかし、現状で既に多くの人件費がかかっており、窮迫する国家財政を鑑みた際、これ以上調査費用を増やすことはできない。
 こういった事情から、年間60klにも満たない弱小醸造業者を許可するわけにはいかない、というのがこの規定の理由であろう。そして、販売を伴わない個人消費目的の醸造も、これが普及すれば酒税収入は減少するのだから、国家権力としてはやはり許可できない。

 このような官方の都合により、我々は、様々な種類のビールを堪能することはできず、四大メーカーの似たり寄ったりのビールを購入せざるを得ない。四大メーカーの存在と寡占の本質的条件は、資本の形成と増大であり、その資本の条件は酒飲みにある。四大メーカーはビール文化普及の促進者であるのだが、このビール文化の普及によって、ビールに対する様々な嗜好が生まれ、四大メーカーが寡占してきた基盤そのものを切り崩す。すなわち、四大メーカーの没落と酒飲みの勝利は、等しく避けられない。



 ビール党は、全体としての酒飲みと如何なる関係に立つのか。
 ビール党は、日本酒党・ワイン党といった他の酒飲みたちと対立する別の勢力を作ろうとしているわけではない。ビール党は、全体としての酒飲みの利害と別の、異なる利害を持ってはいない。
 ビール党は、自分たちの嗜好を他の酒飲みに強要したり、「はじめの乾杯はビール」という型にはめたりはしない。

 ビール党は、次の点でのみ、他の酒飲みから区別される。メーカーの寡占的状況に対して異義を唱え、ビール文化の多様性を推し進めること。及び、酒税法の無意味な規定を撤廃するために、急進的な役割を果たすこと。
 すなわち、ビール党は、実践的には、酒飲み全体の中でもっとも力強く、進歩的な部分であり、他の全てを推し進める部分である。また、一方で、理論的には、酒飲みの大多数よりも、飲酒文化の進む方向の一般的成果をはっきりと理解している。



 ビール党は、品質・衛生に関わらない無意味な監査を緩和し、国費とメーカーにかける負担を軽減するという当面の目的を達成するために、四大メーカーとも同盟する。しかし、監査に関する規定が緩和され次第、直ちに年間最低製造量の規定を撤廃するための闘争を開始する。すなわち、官庁との闘いの勝利は、その後直ちに引き続く四大メーカーによる市場寡占との闘いの序曲でしかない。

 ビール党は、中小酒造業者の興隆及び自家醸造の実現、そして飲酒文化の発展のためには、あらゆる酒飲みとの同盟と協調に努める。

 この目的は、あらゆる現存する制度的制約を、民主的に改正することによってのみ達成できることを、ここに公然と宣言する[15]。国家権力は、マニュアル書き換えの手間に恐れおののけば良い。酒飲みは、酒以外に失うものはない。酒飲みには、勝ち取るべき文化がある。

 日本中の酒飲みよ、団結せよ!

(2010.9.20)

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