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  J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV538「ドリア調」よりトッカータ
    Johann Sebastian Bach:Toccata und Fuge d-Moll BWV538: Toccata


 バッハのオルガン曲には「○○とフーガ」という形式のものが多く見られ、この「○○」には「トッカータ」「前奏曲」「幻想曲」といったものが入る。しかし、庵主にはこれら三者の違いがどうにも分からない。前奏曲と幻想曲とを較べると、前者が安定した旋律がかっちりとしたリズムで進むのに対し、後者は即興的な旋律が変則的なリズムで繰り出される傾向があるような気がするが、必ずしもそうとは言えない。まして、トッカータともなると、日本語でどのように訳すかすら定まっていない(なお、中国語では、通常はやはり「托?塔(tu? k? t?)」と音訳されるが、語源「toccare(触れる)」を根拠に、「触技曲」という訳を当てる者もいる)。結局は、フーガの前の前奏曲というくらいに見なしておいて、形式・曲調については、個々の曲についてそれぞれ別個に考えるしかないのだろう。
 このトッカータは、上下に振幅する十六分音符の旋律が特徴的で、それが荘厳に重なり合う点では、対位法的と言えるかもしれない。ただ、次々と主旋律を重ねることで緊張を高めて行くフーガとは異なり、むしろ異なる声部同士で掛け合いをするという性格を強く持っている。つまり、明確な主題を有し、それを様々な声部で奏で合う、協奏曲のような構造となっているのである。
 また、譜面中には、「Oberwerk」「Positiv」と、鍵盤の使い分けも指示されている。この指示に従って、上下の鍵盤を行ったり来たりしながら弾くことによって、異なる音色同士が掛け合いを行う演奏効果を狙っている。これもまた、協奏曲的な形式を意識していると言えるだろう。
 とにかく動きがダイナミックで迫力があり、しっかり弾こうとすると大変なのだが、気楽に弾いて楽しい曲の一つと謂えよう。

(2011.12.8)

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