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  J.S.バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542よりフーガ
    Johann Sebastian Bach: Fantasie und Fuge g-moll BWV542 - Fuge


 中型以上のパイプオルガンには、手鍵盤の他に、大抵は約2オクターブ半の足鍵盤がついている。この足鍵盤の存在が、演奏の幅を大きく広げてくれる。主旋律がかちゃかちゃ動いている間に、足でズシッと踏み込んで重低音を伸ばし続けることもできるし、両手で2声か3声を弾いている間に両足でも1声を担って、合計3声や4声のフーガを実現することだって可能だ。
 この曲に於ける足鍵盤の役割は、後者の方である。開始14小節目の末尾にして初めて足鍵盤が登場するが、登場早々から主旋律を奏で、主役を担う。この足鍵盤の活躍によって、フーガの複雑さ、そして和音の幅が大きく拡大する。そして、全体の曲運びに於いても、足鍵盤は大きな効果を果たしている。この曲は、主旋律が次々と放たれるトッティと、手鍵盤のみで伸びやかに歌われる間奏部とが、協奏曲のように入れ替わりながら現れる構成となっている。そして、軽やかな間奏部から重厚なトッティに切り替わる瞬間、間奏部で文字通り鳴りをひそめていた足鍵盤が参戦すると、厚みが劇的に増し、クライマックスへの突入を告げるのである。
 この曲を他の楽器で演奏することもできる。例えば、リスト編曲版をピアノで弾く場合もあるし、或る友人は高校時代にギターで合奏をしたらしい。それらのバージョンも、オルガンに負けず劣らず素晴らしいし、私なんぞが弾くよりも良い演奏はいくらでもある。ただ、ピアノの場合は、両手で足鍵盤パートまでカバーしなければならないのだから、かなり高い技術が必要とされる。また、合奏するには人数が必要で、それなりに練習回数を重ねる必要がある。その点、オルガンなら、それほど高いレベルでなくても一応は弾けるようになるし、一人で練習すれば良いのだから気楽である。
 足鍵盤があるからオルガンは難しい、と考える人も多いが、私は逆だと思う。足鍵盤があるからこそ、同じ曲でも簡単に、気楽に演奏することが可能なのである。
(2010.10.6)

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