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  J.P.スウェーリンク:「大公のバレー」
    Jan Pieterszoon Sweelinck: "Ballo del Granduca"


 軽やかなリズムで古雅な和音が刻まれる始まり方が印象的なこの曲は、その名も「Ballo del Granduca(大公のバレー)」、舞曲の旋律に基づく変奏曲である。
 ここで謂う「大公(Granduca=Grand Duke)」とは、トスカーナ大公フェルディナンド1世・デ・メディチのことである。1589年、メディチ家の当主であるフェルディナンド1世がフランス王アンリ2世の孫娘クリスティーヌと結婚した際、その式典のためにエミリオ・カヴァリエリによって舞曲「O che nuovo miracolo(おお、何という新しい奇跡)」が作曲され、式中で歌劇「La Pellegrina(巡礼の女性)」の中の幕間劇として上演された。
 スウェーリンクは、この曲のバス・パートの旋律を最低音として用い、その上に様々な和音や旋律を乗せて鍵盤曲とした。こうして生まれたのが、この佳曲「大公のバレー」である。この録音では、どんな音色を使おうか迷いながら演奏しているため、踏み切り方がいまいちになってしまっているが、それでも全体の明るく楽しく軽やかな雰囲気は感じて頂けるだろう。
 なお、「Ballo」を「バレー」とするのはいささか訳しすぎの嫌いがあり、「踊り」とでも言っておいた方が正確なのかもしれない。というのは、当時の「Ballo」は、現在の我々が思い浮かべる「ballet」とはかなり様子が違うものだったからだ。
(2010.11.1)

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