トップ音楽
  J.P.スウェーリンク:「おかしなシモン」
    Jan Pieterszoon Sweelinck: "Malle Sijmen"


 スウェーリンクは、16世紀から17世紀初頭にかけての、オランダのオルガニストである。即興演奏の達人として名高く、「アムステルダムのオルフェウス」と称された。また、教育者としての業績も高く、自国の弟子だけでなく、プレトリウス、シャイト、シャイデマンなど多くの優秀なドイツ人音楽家を育てたことから「オルガニスト製造家」とも呼ばれ、北ドイツのオルガン音楽に大きな影響を与えた。
 作曲家としても、トッカータやファンタジア、リチェルカーレといった類の曲を多く残し、その後の鍵盤曲や対位法の発展に大きく寄与した。しかし、私は、そういった彼の革新性よりも、むしろ昔ながらの旋律を用いた変奏曲の方に魅力を感じる。「我が青春は過ぎ去りぬ(Mein junges Leben hat ein End)」「緑の菩提樹の下で(Onder een linde groen)」「涙のパヴァーヌ(Pavan Lachrimae)」等々、各地の民謡や流行の歌曲に基づく旋律が、雅な和声と一体となって、独特の雰囲気を持つ変奏曲をなしている。
 この「おかしなシモン」もその一つで、教会旋法を思わせる古めかしい調性の旋律が、素朴な和音の上でのびやかに展開される。原曲は「Mall Sims」という名のイギリス舞曲で、当時のオランダで高い人気を誇った曲なのだが、いつの間にかそれが「Malle Sijmen」に訛り、「おかしなシモン」の意味になってしまったという。まったくおかしな話である。
(2010.11.2)

上に返る