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  J.S.バッハ:シンフォニア12番 イ長調
  Johann Sebastian Bach: Sinfonia 12, A-Dur BWV798


 もし貴方が普段聴いているオルガンが、何だか音がとげとげしていてあんまり綺麗じゃないなぁ、というものであっても、それは大抵オルガンのせいではない。建物の残響が短いためである。もちろん、オルガンの整音自体に問題があれば全然ダメだが、そういうケースはほとんど体験したことがない。要するに、建物の音響次第によって、オルガン演奏の美しさは大きく左右されるということである。そして、本当は下手な弾き方であっても、残響に救われるケースもあるのだ。この録音が、まさにそうである。
 この曲は「インベンションとシンフォニア」シリーズの中の一つ。旋律のかわいらしさが特徴的だが、構造は複雑であまりかわいらしくない。この演奏でもミスタッチが目立つ(遊びで軽く弾いたものだから、と言い訳させて頂きたい)。同シリーズにおける他の曲にも言えることだが、旋律の掛け合いが自然に曲を盛り上げて行って、自然に収束して行き、展開に不自然さが全く無い。
 バッハの曲について、対位法が云々、論理性が云々、といったことはよく聴く。しかし、彼の作品の良さは、何より、展開の自然さにあるのではないか、と思う。尻切れトンボのような終わり方はしないし、終わりを引っ張り続けてクドくなることもない。単声でも美しい旋律がテンポよく進んでいって、旋律同士の絡み合いで自然に盛り上がりを形成し、旋律の終わりに合わせて曲も終わって行く。過不足ない、実に自然な展開である。
 なお、この録音では、一回通して弾いた後に、私のお気に入りの場所から再度弾き直している。しかし、大して長くもない曲なのだから、どうせならまた最初から弾けば良かったかもしれない。

(2010.9.17)

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