トップ写真>外来語について1


 ある中国人の友人と話していると、たまに、「日本人が英語が下手なのは、カタカナ語のせいだ」ということを言われる。確かに、かつて父がアメリカに行った時、マクドナルドで「コーヒー」を注文したらコーラが来たという。これは、まさしくカタカナ語の弊害と謂えよう。
 ――もっとも、「salad」を「沙拉(shala)」、「sandwich」を「三明治(sanmingzhi)」と呼ぶ中国の人間に言われる筋合いでもないだろう。

 しかし、こうした中で、横文字の言葉を如何に表記すべきかという問題について、一律に教科書に従わず、工夫を試みる者もいる。
   
 「丸の内ビルヂング」が「丸の内ビルディング」になったこのご時勢、「コーヒー」がこのように「コーフィー」と表記しても良かろう。この方が、アメリカに行ってもコーラを出されずに済むかもしれない。ならばいっそ「カフィー」にすれば良さそうなものだが、そこであえて「コーフィー」に留めるところに、こだわりが感じられる。

 「building」についても、「ビルヂング」「ビルディング」以外に、独自の表記がある。
   
 これは、免税店や駐車場を独占的に経営している「空港ビル管理会社」という種類の会社で[13]、縄張りは羽田空港である。羽田空港は滑走路が増えたり、国際便ターミナルが新たに造られたり、色々新しくなっているのだが、この会社の名前は新しくならない。

 また、その他、「ヒルディング」というものもある。
   

 そもそも、「ビルヂング」にせよ「ビルディング」にせよ「ビルデング」にせよ、英語そのままの発音ではない。思うに、日本語の中で使用される単語なのだから、まずは日本語としての響きがどのようであるかを問題にすべきである。
 古くから東京駅と皇居の間に立つ丸ビルが、「ビルヂング」と「ビルディング」のいずれの表記を採る方がその伝統と格式にふさわしいのか、いずれが雅な味わいを有するのか、考えてみるべきだったのではないかと思う。

 例えば、地方紙にこのようなものがある。
   
 「デイリー」と改称しないからこそ保ち続ける興趣というものがあるのではなかろうか。

 そして、いたずらに原語の発音への近さを追求すると、小賢しさをも通り過ぎて、却って野暮ったくなってしまう危険性すらある。
    

 日本語に於ける外来語というのは、原理原則ばかりを適用すべきものではなく、本来もっと柔軟に運用されるべきものである。
 例えば、「beer」を「ビア」と言うとまるで明治の文豪のように気取った雰囲気になってしまうが、「beer garden」を「ビールガーデン」と言ってしまうと、何だか間抜けである。 日本語の感覚としては、「ビアガーデンに行って、ビールを飲む」という、外国人にとっては非常に分かりにくい言い回しが、適切なのだ。
 我々は、日本語としての見た目・聴こえという観点から、もう一度カタカナ語を考え直してみるべきではないだろうか。
(2010.9.17)
上に返る