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  J.S.バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542より幻想曲
    Johann Sebastian Bach: Fantasie und Fuge g-moll BWV542 - Fantasie


 「オルガンの魅力は何ですか?」
 以前、東大新聞の取材を受けた時、最後にこのように訊かれた。実に核心を突いた問いであり、さすがは東大新聞である。この問いを投げかけた記者は、かなりのベテランらしい。また、実際に自宅で酒を醸造しているというから、やはり只者ではない。ビール党宣言を掲げる自分としては尊敬すべき人物である。ただ、取材の時には、掲載号ができたら私にくれると言っていたのだが、その後、今に到るまで未だ受け取ってはいない。もしかすると、金を出して買って読め、ということなのかもしれない。
 結局どのような記事になったのかは分からないのだが、それはさておいて、冒頭のこの問いに対し、私は「一人でも簡単に大きな音を出せること」と答えた。ピアノでもヴァイオリンでも、大音量を出そうとすれば、それなりに技術とエネルギーを要するものである。しかし、オルガンは、たくさんのレジスターをON状態にして鍵盤を押すだけで、迫力ある音が出るのであり、その操作のために自らが費やすエネルギーは、ごく僅かである。つまり、パイプオルガンでは、自分ではそれほど力を使わずに、大音量・大迫力の演奏を実現できるのである。オルガンという楽器には様々な魅力があるが、その中で最も分かりやすいのが、音量と迫力なのではないか、と私は思う。
 この曲は、冒頭で突然、大音量・大迫力の和音が鳴り出し、始まりを告げる。そして、動きの早いパッセージや、静かな間奏部を挟みながら、厳かに、力強く、進行して行く。緊張感ある不協和音に、開放感ある和音に、パイプオルガンの大音量・大迫力を存分に発揮することができる。
 こんな音を一人で簡単に出すことができるのだから、オルガンはやめられない。

(2010.10.5)

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