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  J. L. F. メンデルスゾーン=バルトルディ:オルガン・ソナタ第6番ニ短調
   Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy: Sonate fur Orgel Nr. 6 d-moll


 パイプオルガンの最も分かりやすい魅力は、以前述べたように、何といってもその音量・迫力だが、もう一つの魅力は、多種多様な音色である。
 私が普段弾いている900番教室のオルガンは、音色は12種類、パイプオルガンとしては比較的小規模な方である。しかし、12種類といっても、それぞれをどのように組み合わせるかという選択肢を計算すると、理論上では2の12乗通り、つまり約4000通りという値が出る。900番のオルガンを弾く人間は、この約4000通りのうちから、自分の弾く曲に相応しい音色の組み合わせを選ぶのである。更に大型のオルガンなら、天文学的数値にまで可能性が広がる(例えばNHKホールのオルガンは100種類の音色があり、組み合わせは2の100乗通りに達する)。これは楽しい。
 しかし、この楽しみは、一般にはあまり知られていないように思う。それには様々な要因があるだろうが、一つの原因としては、コンサートの際に、オルガニストが自分の使う音色の組み合わせについてあまり公開しないからではなかろうか。

 先日の演奏会では、メンデルスゾーンのオルガン・ソナタ第6番を弾いた。この曲は第一部がコラール変奏曲であるためもあって、全曲で様々な音色を使うことができる。そこで、使用した音色の組み合わせ(これを「レジストレーション」と謂う)をパンフレットに載せてみた。以下はその抜粋である(なお、このオルガンの12種類の音色については、こちらの解説を参照)。

第1部 コラール変奏曲 ニ短調
 コラール「Vater unser im Himmelreich(天にまします我らが父よ)」の主題(譜例1)に基づく変奏曲。
 (譜例は省略)

・コラール主題
 全ての声部が一体の和音となって、主題を呈示する。
  両手:Holzgedackt 8’+Principal 4’
  足 :Subbass 16’+Gedackt 8’+Choralbass 4’
  (中略)

・第一変奏Andante sostenuto
 絶えず16分音符で動き回る内声部の上で高音部が主題を奏で、低音がそれらを静かに支える。
  右手:Gemshorn 8’+Rohrflote 4’
  左手:Holzgedackt 8’
  足 :Subbass 16’
  (中略)

・第二変奏
 主題が再び和音として現われ、その下で足鍵盤が三連符を刻み続ける。
  両手:Holzgedackt 8’+Principal 4’+Principal 2’
  足 :Subbass 16’+Gedackt 8’+Choralbass 4’
  (中略)

・第三変奏
 中低音が主題を渋く鳴らし、高音部が和声を担う。
  右手:Gemshorn 8’+Principal 2’+Quinte 4/3’
  左手:Trompetenregal 8’
  足 :Subbass 16’+Gedackt 8’
  (中略)

・第四変奏Allegro molto
 両手がめまぐるしく分散和音を奏で、その下で足鍵盤がしっかりとコラール主題を進行させる。後半になると主題は手鍵盤に移動し、高中低の各音部の間で次々と受け渡される。そして、最後に巨大な和音となってコラールを再現させ、変奏曲を閉じる。
両手:α(Principal 4’+Mixtur 2-3 f+Trompetenregal 8’)+β(Gemshorn 8’+Principal 2’+Quinte 4/3’)―→(第95小節~)α+β+Krummhorn 8’
足 :α+β+γ(Subbass 16’+Choralbass 4’)―→(第49小節~)β+γ―→(第91小節~)α+β+γ―→(第95小節~)α+β+γ+Krummhorn 8’
  (中略)

第二部 フーガ Sostenuto e legato ニ短調
 コラール旋律の一部分を用い、それを主題(譜例2)にした4声のフーガ。後半部でじわじわと和声的緊張を重ねて行く展開は、ロマン派的。
ソプラノ,アルト:α(Gemshorn 8’+Rohrflote 4’+Principal 2’+Quinte 4/3’)―→(第79小節~)β(Holzgedackt 8’+Principal 4’)―→(第83小節~)α+β
テナー:β ―→(第72小節~)α ―→(第83小節~)α+β
バス :γ(Subbass 16’+Choralbass 4’) ―→(第83小節~)α+γ
  (中略)

第三部 終曲 Andante ニ長調
 コラール主題とは関係ない旋律(譜例5)だが、静かな雰囲気を持つ優美な曲で、ソナタ全体を静かに締めくくる。
両手:Holzgedackt 8’+Rohrflote 4’ ―→(第9小節~)Rohrflote 4’ ―→(第17小節~)Holzgedackt 8’+Rohrflote 4’+Quinte 4/3’ ―→(第21小節~)Holzgedackt 8’+Rohrflote 4’+Principal 2’+Quinte 4/3’ ―→(第31小節)Holzgedackt 8’ 足 :Subbass 16’+Gedackt 8’
  (以下略)

 演奏自体は、主題呈示部でミスをしたり、第一部第四変奏を早く弾き過ぎたり、フーガの最初でレジストレーションを間違えたりと、失敗だらけであった。しかし、このようにレジストレーションをパンフレットに書くということは、オルガンの魅力を伝えるための、良い試みであったのではなかろうか。もっと沢山のオルガン弾きにやって欲しいと思う。
(2010.12.13)

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