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  J.S.バッハ(?):トッカータとフーガ ニ短調BWV565
   Johann Sebastian Bach(?): Toccata und Fuga d-Moll BWV565


 間違いなく、最も有名なオルガン曲の一つである。劇的なフレーズで始まり、力強い旋律が分かりやすく展開し、最後は華々しく締める。同名同調の曲に「ドリア調」という呼び名が付いている一方で、この曲にそのような呼び名は無く[58]、単に「トッカータとフーガ ニ短調」と言いさえすれば、通常はこの曲を指す。このことからも、如何に人気があるかを知ることができよう。
 しかしながら、来歴がはっきりせず、構造も単純で、バッハの作品であるか否かは疑問視される。後人の仮託か、バッハ本人の作品だが無伴奏ヴァイオリンのための曲か、後妻アンナ・マグダレーナの手に成るものか、等々、未だ定論は無い。
 庵主は、この曲がバッハの真作であろうと無かろうと、あまり気にしていない。バッハについての研究を行っているのであれば、この曲を資料として用いることができるかは問題になるが、庵主は一介の素人である。聴いて楽しいか否か、弾いて楽しいか否か、それが重要であり、誰が作ったかは問題ではない。もし、無名の後人が偽作したものだとしても、それは、誰も相手にしてくれなかったかもしれないこの曲を、「バッハ作」と偽ることによって21世紀の今まで残せたと考えれば、それはそれで良い嘘であったと思う。
 かつて、師から聞いたことがある。――「『論語』には、ほとんど無駄な字が無い。しかし、二文字だけ無駄である。それは何か。『子曰』が無駄である」と。もし『論語』の内容や文章が本当に素晴らしいものであるというならば、それがたとえ孔子の教えでなかろうと、その素晴らしさは少しも損ねられることはないのである。
(2012.5.5)

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