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  J.P.スウェーリンク:「我が青春は過ぎ去りぬ」
    Jan Pieterszoon Sweelinck: "Mein junges Leben hat ein End"


 スウェーリンクは、プロテスタント勢力が席巻する当時のアムステルダムの中で、カトリック信仰を守り続けた人物であった。そのためか、宗教曲をモチーフにした作品はあまりなく、民謡・流行歌を用いることが多かった。そして、そうして作られた変奏曲の中で白眉とされるのが、この「我が青春は過ぎ去りぬ」である。
 原曲はドイツの歌のようだが、旋律は既に失われ、今ではこの曲を元に想像する他に無い。また、スウェーリンク自身はドイツに行ったことが無いので、おそらく彼の元に数多くいたドイツ人の弟子から聞いたものと考えられる。一音ずつ穏やかに下降していく音型は、「大公のバレー」「おかしなシモン」といった他の軽快なものとは異なり、静かな落ち着きと渋い味わいを持っている。この主題を保ちつつ次々と音型を変化させ、様々な音色が繰り広げられ、最後の第六変奏では第一変奏を想起する音型が再度現れ、極めて整った形で終結する。
 この演奏は、もう4年前になる。今から思い返せば、まさに「我が青春は過ぎ去りぬ」である。オルガンを弾く際のアーティキュレーションも何も知らず、力づくで音を並べ立てている。その結果、主題がボケたり切れたりしてしまっているが、何だかよく分からない自信とエネルギーを感じる。今なら、もう少し枯れた雰囲気の演奏ができるのではないだろうか。いや、しかし最近は練習を怠り気味だから、これほど指は動かないだろう。――悪い意味で、我が青春は過ぎ去ったのであった。
(2010.11.3)

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