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  M.ラヴェル:「亡き王女のためのパヴァーヌ」
   Mourice Ravel: Pavane pour une infante defunte


 「いい曲は、へたくそが弾いても、いいなぁ」
 これは、映画「転々」の中で、三浦友和氏の扮する元借金取り「福原さん」の述べた言葉である。どこかの学校(恐らく日本大学文理学部キャンパス)の中から、この「亡き王女のためのパヴァーヌ」が聴こえて来た時、この台詞が発せられた(その後、「福原さん」は歩道の真ん中でタクトを振り始めてしまった)。
 では、「へたくそが弾いても、いい」というのは、どのような曲なのか。それは、旋律の美しい曲ということではないだろうか。優れた作曲を「和声」やら「対位法」やらで小難しく評価する言説はよく見かけるが、そういった高度なものは、へたくそが弾いたらすぐに紛れて聴き取れなくなるだろう。また、リズムの妙や音の大小も、センスがなければ下品に聴こえる。しかし、いい旋律は、へたくそが弾いても、いい。
 この「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、まさにそのような曲である。旋律が大変に優美で、「亡き王女の肖像画にインスピレーションを得た」という逸話のイメージによく合致する(もっとも、「亡き王女(infante defunte)」は単に韻を踏んだ言葉遊びとも言われる)。その一方で、旋律以外にはそれほど取り柄がなく、作曲したラヴェル自身はこの曲を「貧弱」とけなしている。しかし、作曲者自身が如何にけなそうと、メロディの素晴らしさは明らかであり、この非凡な美しさの故に、「へたくそが弾いても、いい」のである。映画の中の、何ということもないワンシーンではあったが、「福原さん」の言葉は、この曲の本質を見事に言い当てている。
 ピアノ曲として作られたこの曲を、ここではオルガンで弾いてみた。途中でトイピアノも使いつつ[54]、オルガンの様々な音色を楽しめるよう、和音や装飾音を減らしてメロディラインを素朴に演奏した。成功とまでは言えないが、これもまた一興であろう。
 ともあれ、いい曲は、何で弾いても、いいものである。
(2011.12.12)

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